高齢者の入浴中突然死が増えています。入浴中事故による死亡者は年間1.4万人前後ともいわれており、交通事故の死亡者よりも多発しています。そのほとんどが、65歳以上の方々で、75歳以上の後期高齢者と呼ばれる層に顕著で、12月から3月の寒い時期に多く発生しています。
さらに、これは温かい浴槽にゆったり深くつかるという日本人独特の入浴スタイルにも起因するといわれています。これほど入浴中の急死が多いのは、日本だけで欧米ではほとんど発生していません。
※宗像地区消防本部管内でも近年は「入浴中高齢者突然死」が増えています。
○浴室内で発生した救急事故調査結果(平成22年中統計〜宗像地区消防本部管内)
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発生件数 |
54件(搬送件数〜47件、不搬送〜7件) |
発生場所 |
住宅53件、公衆1件 |
傷病程度別患者数 |
軽症11人、中等症22人、その他(搬送辞退等)3人、重症14人(心肺停止8人)、死亡4人(不搬送)
※重症14人、死亡4人の方々のほとんどが高齢者です。 |
事故種別件数 |
急病43件、一般負傷11件=合計54件 |
年齢区分別患者数 |
乳幼児3人、少年0人、成人11人、高齢者40人=合計54人 |
(注)年齢区分のうち「新生児」は生後28日未満、「乳幼児」は新生児を除く満7歳未満「少年」は7歳以上18歳未満、「成人」は18歳以上65歳未満、「高齢者」は65歳以上 |
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○浴室内で発生した救急事故の月別発生件数
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
計 |
10件 |
8件 |
5件 |
3件 |
3件 |
0件 |
3件 |
4件 |
2件 |
4件 |
5件 |
7件 |
54件 |
日本人の一般的な入浴方法に沿った血圧の変動
@入浴行為に伴う血圧の変動は浴室環境、特に室温によって大きな影響を受けます。
A高血圧患者は、入浴中の血圧変動(ヒートショック)のリスクが血圧正常者より大きい。
B熱いお湯は血圧を上げる作用を持ち、入浴前と後では血圧が30%近く変化することがありま す。これが心臓や脳の負担となります。
詳しくはこちら
高齢者の浴槽内での溺死による死亡率の高い(低い)都道府県 |
(2003−2005年の平均値。65歳以上人口10万対)
高い地域
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男
|
女
|
低い地域
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男
|
女
|
福岡県
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28.2 @
|
35.2 @
|
沖縄県
|
0.6 @
|
1.4 @
|
富山県
|
25.2 A
|
16.7 G
|
京都府
|
1.4 A
|
3.4 A
|
福井県
|
22.0 B
|
18.4 C
|
青森県
|
4.3 D
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3.9 B
|
和歌山県
|
13.2 I
|
24.8 A
|
山口県
|
3.6 B
|
5.7 G
|
兵庫県
|
15.8 E
|
21.9 B
|
埼玉県
|
4.3 D
|
5.9 H
|
神奈川県
|
19.6 C
|
16.6 H
|
栃木県
|
5.3 G
|
5.5 F
|
新潟県
|
18.2 D
|
15.6 J
|
千葉県
|
5.5 H
|
5.4 E
|
秋田県
|
15.8 E
|
17.8 E
|
北海道
|
7.1 L
|
4.8 C
|
山形県
|
15.4 G
|
13.8 N
|
宮崎県
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4.1 C
|
8.4 M
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注:○付数字は、男女別順位。
■上記のデータについては、国立保健医療科学院 健康住宅室長 鈴木 晃氏執筆の高齢者の「入浴中の急死」に関する地方性(日本固有の住文化の問題に加えて)から引用したものです。
・北海道と青森県での死亡率の低さは、仮説として外気温が低くても暖房環境が整っていて室内温度は暖かいことが低く抑えられているといわれています。
・入浴中の急死の原因については、浴槽内で熱中症が起きている可能性が高いほか、浴室や脱衣所の室温と浴槽内の湯温の温度差を背景とする血圧の変動の結果、脳虚血等の意識障害が起きていることが推定されています。
・福岡県の死亡率は、男女とも高い地域のトップの数値を示しています。
“「高齢者入浴中突然死」を防ぐために”
○「高齢者入浴中突然死」とは?
入浴時に,急激な脈拍の増加や血圧の低下がおき,その結果として心筋梗塞,脳梗塞,脳出血,などの深刻な病態に陥り突然死する危険が大きくなることです。
入浴に関する一連の行動時の血圧変動は,脱衣から浴槽に入るまで一気に血圧は上昇し,浴槽内へ入ることで血圧は急速に低下し,その変動は±30o Hg を超える場合もあるといわれています。(ヒートショックとも呼ばれている)
○「ヒートショック」とは?
暖かい場所から寒い場所へ移動するときに体が受ける急激な温度変化を「ヒートショック」といいます。これは,脱衣場などの寒い場所に入ることで血管が収縮し,入浴後は血液が温められて血管が広がるためによるものです。特に高齢者では心臓や血管の調節機能が低下していることから,この「ヒートショック」の影響を受けやすく,高齢者の事故死の中で入浴中(浴室の中,脱衣場,風呂の洗い場,風呂から上がった直後など)に亡くなる方の数は全国で年間1万4千人ともいわれており,交通事故で亡くなる方よりも多くなっています。
○「入浴中の突然死・事故を予防するために」
@ 長湯はひかえる。(全入浴時間20分以内)、湯温は38℃〜41℃に設定
A 脱衣場や浴室を事前に十分暖める工夫。(温度差の上下を少なく)
B 「二番湯入浴のおすすめ」他の人が入浴した後は浴室も暖まっており、浴槽内の湯も熱すぎ ないため高齢者は二番湯入浴をすすめる。
C 「半身浴入浴の習慣を」心臓に負担がかからないように半身浴をこころがけ、肩には暖かい タオルを置くなどの工夫をする。
D 体調不良時や食後、飲酒後の入浴はさける。
E 血圧降下剤、安定剤、睡眠薬の服用後の入浴はさける。
F 高齢者の入浴は血圧が比較的安定している夕方7時頃までに。
G 入浴前後には十分な水分摂取を。
H 高齢者が入浴の際は、家族はこまめな声かけを。
I 高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、てんかんなどの既往がある方は普段から注意を。
J 湯上りは血管が膨らんでいます。体を拭くとき立って拭くと血液が足の方へ行き,立
ちくらみを起こすことがあるので,洗うときのように座って体を拭くように心がける。
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